このたび「次世代物質探索のための離散幾何学」の代表を務めることになりました。本領域では、これまで邂逅の機会があまりなかった『数学』と『物質・材料科学』という日本が優位を誇る2つの分野が協働で新しい地平を切り拓き、社会に貢献することを目指しています。
優れた機能をもつ物質・材料を創製することは我々の生活を便利にするだけではなく、時には生活のスタイルや価値観を変える力を持っています。日本は物質・材料科学領域では科学・産業両面で世界をリードしてきましたが、近年、米国を皮切りにドイツ、中国などが情報科学を適用したデータ駆動型物質探索の大型プロジェクト(Materials Genome Initiativeなど)を足がかりとして激しく追い上げています。これは「求める物性や機能を持つような物質・材料を設計する」という長年の夢を実現する可能性を秘めた動きで、従来の『順問題』的アプローチから次世代の『逆問題』的アプローチへと、材料開発のありかたが大きく変わろうとしています。
そこではこれまでに蓄積された経験や知見、特に個人の内に蓄えられた感覚や勘と行った抽象的なものを、いかにして科学の言葉にしていくかが成功の鍵となります。ここに、科学の共通言語を提供してきた数学、特に複雑さや階層性を記述することを得意とし21世紀に入って急速に進展している離散幾何解析学を適用して、物質・材料の構造・機能・プロセス関係を深く理解できるのではないかと考えています。
本領域は、日本ならではの次世代物質探索を旗印にしつつ、数学、物理(理論・実験)、化学、材料工学、情報科学など様々な分野をそれぞれ深化させることも目指します。たくさんの方と情報を共有し議論の機会をもてるようオープンな領域としてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
2017年7月1日
領域代表
東北大学材料科学高等研究所
大学院理学研究科数学専攻
小谷 元子