全体の概要

領域代表者の専門である離散幾何解析学とは、原子・分子のようなミクロ構造やナノ粒子などのメゾ構造(これらを階層的ネットワークと理解します)と物質・材料のマクロな性質、つまり物性・機能の関係を幾何学的に記述し、解析するものです。そこでは、(1)物質のミクロ・メゾ構造とマクロな物性・機能の関係を解明し(順問題)、(2)求められる物性・機能を持つミクロ・メゾ構造を予見すること(逆問題)、(3)更に構造を生成する動的構造形成の制御(最適化・制御)が求められています。本研究は、数学と物質・材料科学の連携により、「構造・機能・プロセスの相関原理」を解明することで、「次世代物質探索のための離散幾何解析学」を創成することを目指すものです。

「物質を階層的ネットワークとして理解する」という大目標のもと、以下のA01~A03の研究項目、および共通手法開発のためのB01の研究項目を設置します。

A01「トポロジカル物質」
[ 対象とする物質 ] 無機材料系 特にスピントロニクス材料
A02「ネットワーク解析による高分子材料」
[ 対象とする物質 ] 有機系材料、高分子材料
A03 「極小曲面とナノ構造の動的構造形成」
[ 対象とする物質 ] 複合材料、特に触媒
B01「物質・材料科学のための情報科学基盤」
ネットワーク解析、画像解析、機械学習

計画研究と公募研究とが連携しながら多様な分野の多様な手法を組み合わせ、普遍的に有効な離散幾何解析学の手法と広範な応用課題を開発します。

特に、数学者と物質・材料科学者が協働して「数学的原理・構造の抽出」「構造と物性・機能の相関解明」「構造形成の制御・最適化」の流れを作り、従来の物質開発のありかたを根本から変革することを目指します。これを通じて若手を育成するとともに、ビッグデータ時代の材料開発に資するべく企業とのセミナーやコンサルテーション、サイエンスカフェを通じて、成果を広く社会に発信していきます。

A01 トポロジカル物質

メンバー 古田幹雄(トポロジー)
橋本幸士(素粒子物理・超弦理論)
達成目標 物質表面に観測されるトポロジー相に依存するロバストな状態が対称性の破れにより発現する普遍的原理を解明し、新たなトポロジカル物質創成によるスピントロニクス・デバイスを開発、特に秩序系で構築された理論を非コンパクト、非線形、無秩序系へ展開する。
材料 トポロジカル材料(省散逸デバイス、熱電変換材料)
数学的手法 指数定理、超弦理論

A02 ネットワーク解析による高分子材料

メンバー 下川航也(3次元トポロジー)
青柳岳司(計算科学)
達成目標 均質ネットワークポリマーを3次元空間内の静的ネットワークとして記述し、結び目理論などの位相不変量と物性との相関を解明する。更に密度揺らぎを最適化・制御する動的ネットワーク構造を予見し、多機能性を持つ高分子材料を合成する。
材料 高分子材料(多機能ポリマー)
数学的手法 3次元トポロジー

A03 極小曲面とナノ構造の動的構造形成

メンバー 小谷元子(離散幾何解析)
内藤久資(大域解析・数値解析)
高見誠一(ナノ材料科学)
達成目標 多連続多孔質構造を離散曲面論により分類・最適化し、それを相分離により実現するために、大域解析を用いて狙った動的構造形成を実現する指針を見出し、高度な界面制御技術により狙った構造を形成する。
材料 多孔質材料(革新的触媒・次世代電池)
数学的手法 離散極小曲面論

B01 物質・材料科学のための情報科学基盤

メンバー 大西立顕(数理工学)
一木輝久(統計物理)
達成目標 物質・材料が持つ複雑な階層ネットワーク構造を数値化します。また、材料の実空間観察画像(材料のトポロジー)からその材料の機能を高速かつ正確に推定する手法の確立を目指します。これらを活用したA01-A03との連携を図ります。
手法 ネットワーク解析、画像処理・機械学習